ノンファーム型接続による系統容量制約緩和:政策的意義と今後の展望
はじめに
エネルギーシステムの複雑化が進行する中で、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の主力電源化は喫緊の課題となっています。しかし、再エネの大量導入は、特に送配電ネットワークにおいて新たな課題、すなわち系統容量の制約を顕在化させています。これは、特定の地域における再エネ発電所の増加が、既存の送電線の容量を超えるリスクを生じさせるためです。この系統容量制約は、新たな再エネ接続のボトルネックとなり、導入目標達成に向けた大きな障壁となっています。
このような状況下、系統容量を最大限活用し、再エネ接続を円滑に進めるための技術的・制度的取り組みが求められています。その一つとして注目されているのが「ノンファーム型接続」です。本稿では、ノンファーム型接続の基本的な考え方、導入による政策的意義、現在見られる課題、そして今後の展望について、政策立案の視点から解説します。
ノンファーム型接続の基本とその政策的意義
ノンファーム型接続は、従来の「ファーム型接続」とは異なり、系統混雑時に発電事業者側が出力抑制(発電を一時的に停止または抑制すること)に同意することを前提として、系統への接続を可能とする方式です。ファーム型接続では、接続契約を結んだ容量に対して、電力系統側は常に送電容量を確保しますが、ノンファーム型接続ではその保証がありません。
この方式の最大の政策的意義は、既存の系統設備を大規模な増強工事を行うことなく、より有効活用できる点にあります。ファーム型接続では、将来的な最大送電量を想定して設備容量を確保する必要があるため、系統増強には多大な時間とコストがかかります。一方、ノンファーム型接続は、混雑時以外は容量に余裕がある既存系統に早期かつ比較的安価に接続することを可能にします。これにより、以下のような政策的な効果が期待されます。
- 再エネ導入の加速: 系統容量の制約を緩和することで、新たな再エネ発電所の接続を促進し、国の再エネ導入目標達成に貢献します。
- 系統増強投資の最適化: 大規模な系統増強が不要となる場合や、そのタイミングを遅らせることができるため、社会全体でのコスト負担を抑制する可能性があります。
- 地域における再エネポテンシャルの活用: 系統容量に余裕がないとされていた地域でも、混雑時抑制を許容することで接続が可能となり、その地域が持つ再エネポテンシャルを有効に引き出せます。
ノンファーム型接続の現状と課題
ノンファーム型接続は、日本国内でも導入が進められ、多くの再エネ発電所がこの方式で系統に接続されています。特に、接続希望が系統容量を上回るエリアにおいては、接続可能な容量を拡大する手段として重要な役割を果たしています。
一方で、ノンファーム型接続にはいくつかの課題も存在します。政策担当者としては、これらの課題に対し、制度設計や市場メカニズムの観点から対応を検討する必要があります。
- 出力抑制のリスクと予見性: ノンファーム型接続を選択した発電事業者は、系統混雑時に出力抑制を受けるリスクを負います。抑制頻度や量が事業計画の予見性を低下させ、投資判断に影響を与える可能性があります。抑制ルールやその運用に関する透明性・公平性の確保が重要となります。
- 抑制ルールの公平性と効率性: どのような基準で、どの発電所に、どれだけの抑制を指示するかというルール(例: 遠方電源優先、メリットオーダーなど)の設計は、公平性と共に、システム全体の効率性を考慮する必要があります。不適切なルールは、特定の事業者にとって不利益となったり、必要な発電が抑制されたりする可能性があります。
- 需給調整市場との連携: ノンファーム型接続における出力抑制は、電力系統の需給バランスや安定化に影響を与えます。需給調整市場や容量市場といった他の市場メカニズムとの連携や、ノンファーム型接続の電源を需給調整力として活用する可能性についても検討が必要です。
- 情報公開と透明性: 系統混雑の状況、出力抑制の予測、実績などの情報を発電事業者や市場参加者に適切に公開し、透明性を高めることが、事業予見性の向上や健全な市場形成に不可欠です。
- 技術的な複雑性への対応: ノンファーム型接続における出力抑制の実施には、発電所の制御システムと系統運用システムとの連携が不可欠です。これらの技術的な課題への対応や、標準化の推進も政策的な視点が必要となります。
今後の展望と政策的論点
ノンファーム型接続は、再エネ大量導入期における系統容量制約への有効な対策の一つとして、今後もその活用が進むと考えられます。しかし、その効果を最大化し、課題を克服するためには、継続的な制度改善と関連施策との連携が不可欠です。
今後の政策的論点としては、以下が挙げられます。
- 出力抑制ルールの進化: より効率的かつ公平な出力抑制ルール(例: 将来的な需給調整市場やリアルタイム市場との連動)の検討・導入が必要です。抑制量に応じた補償のあり方なども議論の対象となり得ます。
- 系統情報公開の高度化: 系統容量の利用状況、混雑予測など、事業者が投資判断や事業計画を立てる上で有用な情報の公開レベルを引き上げることが求められます。デジタル技術(例: デジタルツイン)の活用も有効です。
- 分散型エネルギーリソースとの連携: VPP(仮想発電所)など、分散型エネルギーリソースを統合的に制御し、系統混雑緩和に活用する仕組みと、ノンファーム型接続との連携を強化することが、より柔軟で強靭な系統構築に繋がります。
- インフラ投資とのバランス: ノンファーム型接続による既存系統の有効活用は重要ですが、将来的な再エネ導入拡大やレジリエンス強化を見据えた、計画的な系統増強投資も不可欠です。ノンファーム型接続による対策と、長期的な系統増強計画との最適なバランスをどのように取るかが、重要な政策判断となります。
- 国際的な動向の注視: 海外においても、再エネ大量導入に伴う系統課題に対し様々な対策が講じられています。ノンファーム型接続に類する制度や、系統利用の効率化に関する国際的な動向やベストプラクティスを継続的に注視し、国内制度設計の参考にすることが有益です。
結論
ノンファーム型接続は、再エネ導入拡大に伴う系統容量制約という喫緊の課題に対し、既存の系統設備を有効活用することで、再エネ接続を早期かつ比較的安価に実現可能とする重要な政策ツールです。これにより再エネ導入の加速や系統増強投資の最適化といった政策的意義がもたらされています。
しかし、出力抑制に伴うリスクや予見性の低下、公平な抑制ルールの設計、他の市場メカニズムとの連携といった課題への対応が不可欠です。これらの課題に対し、出力抑制ルールの進化、系統情報公開の高度化、分散型エネルギーリソースとの連携強化、そして長期的な系統増強計画とのバランスといった政策的視点からの検討と対応が求められています。
複雑化するエネルギーシステムにおいて、ノンファーム型接続は系統容量制約に対応する一つの有効な手段であり、他の多様な対策(系統増強、地域間連系線強化、蓄電池導入、デマンドレスポンス、デジタル技術活用など)と組み合わせることで、再エネ主力電源化と安定供給の両立に向けた道筋をより確実なものにすることが期待されます。政策担当者としては、これらの要素を総合的に評価し、最適なエネルギーシステム構築に向けた政策を立案していくことが重要です。